13. 家族内の関係性
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1. 夫婦関係
1-1. 夫婦間の満足度の相違
親密な情緒的関係が人生に対する満足度の主要な源泉であることは多くの研究で示されている
特に結婚は人生満足度の主要な規程因であり、一般に、結婚している人はしていない人よりも心身が健康である事が多い 結婚は世界的に見ても、男性により多くの恩恵を与えるが、日本の夫婦関係に関する研究では、こうした傾向がさらに顕著に見られることが指摘されている
これは、日本の女性が育児、家事、仕事、介護など、多重の役割を担い、それによって夫婦間の結婚満足度のずれが生じるためだとされる 実際、20代から60代の夫婦を対象に、日本で行われた大規模な質問紙調査の結果によると、結婚して間もない時期(5年以下)を除き、妻の結婚満足度は夫に比べてかなり低く、特に結婚後15年以上の夫婦では、その差は歴然としていた(菅原・小泉・詫間・八木下・菅原, 1997) https://gyazo.com/44f3d27a3c094dd735405ecce1b62820
これは横断的な調査であり、同じ夫婦の結婚満足度の推移を追ったものではないが、結婚生活に対する考え方、感じ方が夫婦間で異なることは確かだろう
1-2. 夫婦関係における社会的交換
一般的な経済活動においては具体性が高く、個別性が低い財が交換されるが、対人間ではしばしば具体性が低く、個別性が高い財が交換される
この最たる例が夫婦関係における財の交換
諸井, 1990, 諸井, 1996は既婚女性に調査をし、夫婦関係を維持する上での自分と配偶者の貢献(インプット)と夫婦関係からそれぞれが得ているもの(アウトプット)を尋ねた この得点の差を衡平性の度合いとしたところ、衡平の低さは満足感の低さと関係し、利得が小さい場合には怒りが、利得が大きい場合には罪責感が生じることを明らかにしている
ただし、夫婦間の衡平性の認知は両者の性役割観によっても左右される(諸井, 1990) 妻自身が伝統的性役割観を持っている場合には、過小利得に対する不満は最小化されるため
傾向
伝統的性役割観を持つ妻 × 平等的性役割観を持つ夫: 満足感は高い
伝統的性役割観を持つ夫 × 平等的性役割観を持つ妻: 満足感は低い
平等的性役割感を持つ妻は夫との比較によって衡平感を認知する
伝統的性役割観を持つ女性は、自分と同じ立場にある他の女性と比較して衡平感を抱く
妻の結婚満足度を規定する重要な要因には、夫から妻への情緒的サポートも挙げることができる 家庭内の労働の多くが感情労働と考えられることに由来する 航空機の客室乗務員や看護・介護職、企業のクレーム処理係など
従来は頭脳労働の一種として分類されていたが、一般的な頭脳労働に比べ感情の負荷が大きいことから、禁煙は個別の検討がなされているもの 家庭内の労働も、自然に喚起される感情を抑制したり、本来は喚起されていない感情を無理に呼び起こしたりするなどして感情を調整することが求められることから感情労働と共通点が多いが、賃金による対価がないという点ではさらに負荷が高いと言える
すなわち夫から妻への情緒的サポートは、感情労働に対するある種の対価だと考えることができる
この種の研究はアメリカで数多く行われてきたが、日本でも夫が妻を情緒的にサポートするほど妻の結婚満足度が高くなること、またその効果が家事を分担したとき以上のものであることが、末盛, 1999によって示されている またこのような情緒的サポートと結婚満足度との関係は、伝統的な性役割観を持つ妻において顕著であることも明らかにされている
家庭以外の場で他者から評価あれることが難しい専業主婦にとっては、夫からの評価やねぎらいがとりわけ重要な意味を持つことがうかがえる
1-3. 夫婦間コミュニケーションとソーシャル・サポート
夫婦関係が良好な夫婦とそうでない夫婦では、夫婦間のコミュニケーションに違いがあることも指摘されている
夫婦間コミュニケーションの態度を4次元に分け、夫と妻のコミュニケーション態度の違いを検討している
威圧
e.g. 日常生活に必要な要件を命令口調で言う
共感
e.g. あなた(相手)の悩み事の相談に対して、親身になって一緒に考える
依存・接近
e.g. あなた(相手)自身の悩み・迷いごとがあると、あなた(相手)に相談する
無視・回避
e.g. あなた(相手)の話にいい加減な相槌をうつ
結果
夫に最も顕著な態度は「威圧」
妻に最も顕著な態度「依存・接近」
全般的に妻から夫に対してのほうがポジティブなコミュニケーション態度が多く見られた
双方がポジティブなコミュニケーションをしている夫婦、中立的なコミュニケーションをしている夫婦、ネガティブなコミュニケーションをしている夫婦の3群に分けると、中立的なコミュニケーションをしている夫婦以外では妻のほうが夫よりも関係満足度が低く、特に双方がネガティブな態度でコミュニケーションをしている夫婦ではその傾向が顕著に見られた(平山・柏木, 2004) 特に子育て期の妻では会話時間と自己開示が関係満足度を大きく左右することを示している
夫は、総体的には、夫婦のコミュニケーションが関係満足度に影響することは少なかった
そもそも妻以外の相手に自己開示をすること自体が少ない夫は、中年期になると、妻への自己開示の程度が関係満足度を大きく規定することが示されている
2. 親子関係
2-1. 愛着と安全基地
生理的早産と呼ばれる無力な状態で生まれる人間の乳児にとって、身近な養育者との間に築かれる情緒的な絆は、自らの生死を左右する重要な関係性 しかしながら愛着は、単に乳児が飢えや乾きなどの基本的欲求を充足することだけを理由に成立するものではない
このとき、いずれかの模型に哺乳瓶を装着し子ザルが父を吸えるようにしていたが、どちらに哺乳瓶が装着されているかにかかわらず、子ザルはほとんどの時間を布製の代理母とともに過ごした
このことは、子ザルにとっては飢えや乾きといった基本的欲求の充足以上に、代理母との接触から得られる慰み(安心感)が重要だということを示唆している
ハーロウはまた別の実験で、布製の代理母とともに育てられた子ザルを見慣れない部屋(オープン・フィールド)に入れ、その様子を観察した
最初は代理母にしがみついていた子ザルも、しばらくすると代理母を起点にして探索行動を始め、しまいにはそこに置かれた未知のおもちゃで遊ぶようになった つまり、代理母は子ザルが怖くなったらいつでも駆け込める安全基地としての機能を果たし、逆説的ではあるが、それがあるために子ザルの自律的な行動が促されたと考えられる 子どもがそれまで経験したことのない場所で示す反応は人間にも共通している
子どもが母親(保護者)と分離、再会した際の反応から、愛着のスタイルを次の3つのタイプに分けるもの
親との分離に際し混乱を示す事が少なく、再会時にも親から目をそらしたりするなどの回避行動が見られる
親との分離の際に多少の混乱を示すものの、実験者等の第三者からの慰めを受け入れることができる
また親との再会時には自ら身体的な接触を求め、容易に気持ちを落ち着かせることができる
親が近くにいるときには、そこを安全基地とした探索行動が見られる
親との分離時に強い不安や混乱を示し、再会時には身体的接触を強く求めるが、同時に怒りを示すなど、相反する反応をする
行動が不安定で用心深いため、安心して親から離れて探索行動をとることができない
エインズワースが、アメリカの乳幼児を対象に調査した研究
回避型21%・安定型61%・抵抗・アンビバレント型12%
これまで世界各国で行われた同様の調査でも全体的な平均としてはおおよそこれに近い比率が見られている
このような文化差は、子どもの養育に関する親の価値観や姿勢の違い、あるいは親子の関係性の違いに由来すると考えられる
2-2. 愛着スタイルの個人差を生み出す要因
親子関係も、他の対人関係と同様に双方向的なものであるため、愛着スタイルの個人差は、養育者側の要因と子ども側の要因との相乗効果によるものと考えられる 養育者側の要因
子供の状態や欲求に関するシグナルをどの程度、敏感に受信することができるか
そうしたシグナルにどの程度、適切に対応できるか
安定型の子の母親は総じて感受性が高く、子どもに対して過剰な働きかけをすることなく、遊びや身体的接触を楽しむのに対し、回避型の子の母親は子どもの働きかけに拒否的に応答したり、子どもの行動を一方的にコントロールしたりすることが多い
抵抗・アンビバレント型の子の母親は、子どもが発信するシグナルに鈍感で、むしろ親側の気分や都合に合わせて子どもに働きかけをするため、子どもに対する対応に一貫性がなかったり、タイミングがずれたりすることがある
子ども側の要因
全体の約40%
生活のリズムが規則的で大半の時間は機嫌が良く、順応性も高い
親の感受性や応答性が高くなくても育児が順調に進むため、親は自信を持ちやすく、結果的に好循環が生まれやすい
全体の約10%
生活のリズムが不規則で、新しい刺激や環境への順応性が低いため、些細なことですぐに機嫌を損ねてしまう
親によほど高い感受性や応答性がない限り、育児がうまくいかないことも多く、親が無力感や罪の意識を持つことがある
全体の約15%
環境に適応するのに時間がかかるため、活動的ではなく、反応性が低い
残る35%は上記の3タイプに分類できない子ども
結局の所、親子関係も相互作用であり、養育者があの要因と子ども側の要因の適合の度合いによって、愛着スタイルが変化する
2-3. 愛着の継続性と内的作業モデル
ボウルビィによれば、愛着は乳幼児期だけのものではなく、生涯に渡って継続するもの 乳幼児期に養育者との相互作用によって形成された愛着は、その後、養育者以外の他者との関係を構築する上で重要な意味を持つ
乳幼児期における養育者との相互作用が、自己に対するイメージ(自分は他者から愛されたり、援助されたりする価値がある存在か)と他者に対するイメージ(他者は信頼でき、援助を求めればそれに答えてくれる存在か)を形成する基礎となり、さらにこのようなイメージ(心的表象)が、他者の行動を解釈したり予測したりする際の表象モデル(内的作業モデル)として機能するためだと考えられる 個人の愛着対象は、発達段階が進むにつれ、親から友人、恋人や配偶者へと移行していくが、その都度、内的作業モデルは想起され、適用されることになる
一方、他者に対するイメージがネガティブな人は、他者との親密な関係を回避する傾向が見られる
したがって、この関係不安(見捨てられ不安)と親密性回避という2次元によって、成人の愛着スタイルを4つに分類することで、成人期の友人関係や家族関係の特徴が示唆されるとしている ただし内的作業モデルは、幼少期の愛着スタイルによって一義的に決まるわけではない
3. 家族臨床
3-1. 家庭内暴力
身体的暴行
心理的攻撃
人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的嫌がらせ、自分もしくは自分の家族に危害が加えられるのではないかと恐怖を感じるような脅迫など
経済的圧迫
生活費を渡さない、貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど
性的強要
嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど
内閣府は1999年から3年ごとに調査を実施している
2017年に行われた調査では、DVのいずれかを一度でも配偶者から受けたことがある女性は約3人に1人、男性は約5人に1人と報告され、いずれも上記の分類の順で被害者が多い(内閣府, 2018) このように被害者となる比率は女性のほうが高く、夫から妻への暴力が問題視されることが多いが、女性の場合には、その約6割が被害の相談をしているのに対し、男性の約7割はどこにも相談していない
男性は妻以外の他者に自己開示をすることが少ないため、問題が表面化しないままに深刻化する恐れも考えられる しかし上記のような実体を踏まえると、夫婦間暴力に関する対策は実質的な問題解決には至っていないというのが現状
不適切な養育とは、子どもの心身の健全な発達を阻害する養育のことを指し、その多くは児童虐待と呼ばれるものを指す 厚生労働省は児童虐待を4つに分類
身体的虐待
殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束するなど
性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触るまたは触らせる、ポルノグラフィの被写体にするなど
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど
心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(DV)など
この分類に基づいて厚生労働省が調査した全国の児童相談所における児童虐待相談の対応件数は、2017年度が13万3778件と過去最多で、統計を取り始めた1990年度から27年連続で増加したという以上に、2000年に「児童虐待の防止等に関する法律」(児童虐待防止法)が施行されて以降、通告などによって児童虐待が表面化するケースが増えてきたと見るべきだろう 実際、虐待相談の相談経路は、警察等(49%)を筆頭に、近隣知人(13%)、家族(7%)、学校等(7%)と多岐にわたっている
虐待の内容別では、心理的虐待に関する相談対応件数が最も多く(54%)、身体に損傷を与えるものだけが虐待ではないという認識が深まっている様子も伺える
身体的虐待は心理的虐待に次ぐ件数ながらその約半数にとどまり(25%)、それにネグレクト(20%)、性的虐待(1.2%)が続いている
3-2. 家族療法
家族は1つのシステムであり、全体としてバランスをとるように相互に影響しあっている
個人はそのシステムの一部であり、家族の誰かが問題を抱えているということは、家族全体のバランスが損なわれていることを意味する
特に家庭内暴力のような家族間の関係性に由来する問題は、個人に心理療法を行うだけでは本質的な解決には至らず、一旦は問題が沈静化したように見えても、すぐにもとに戻ってしまう
家族全体のバランスを回復することに焦点をあてている
その人は家族システムのなかでたまたま症状を呈した人であり、家族システムやそれをとりまく生態学的なシステムにおいて生じた機能不全がその人を通じて露呈したと解釈される
たとえば、子どもの非行の背景には夫婦関係の不和や、親の子への関わり方(母親による過干渉、父親による放任など)の問題があるかもしれない
家族療法ではこの場合にも直線的な因果律でとらえて犯人探しをするのではなく、家族成員相互の関係性に着目する
因果を円環的にとらえ、関係性の悪循環こそが家族システムの機能不全だと考える
家族にはその家族特有の文化があり、それによってシステムが維持されているため、悪循環を断ち切るのは容易ではない
しかし問題を抱える当事者(IP)だけでなく、家族が心理療法に参加することによって、またセラピストが家族特有の文化、すなわち家族間の暗黙のルールや言語・非言語のコミュニケーション・スタイルなどを読み解き、それに応じた介入をすることによって、家族成員間に新たな関係性の構築を促すことができる